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むかしあるところに、真ん丸ぽっちゃりの可愛い女の子が、お母さんと一緒に暮らしていました。女の子を大層可愛がっているおばあさんが、女の子の誕生日に、赤い頭巾をプレゼントしました。それはそれは良く似合っていましたので、女の子は大喜びです。それから女の子は赤ずきんちゃんと呼ばれるようになりました。
ある日、お母さんが赤ずきんちゃんを呼んで言いました。
「ビスケットを焼いたから、このワインと一緒に、おばあさんのところへ届けておくれ」
赤ずきんちゃんのおばあさんは、赤ずきんちゃんの家と森を挟んだ、向こう側の村に一人で住んでいるのです。
「おばあさんはこのところ、身体の具合が良くないそうだからね。これを食べて、早く元気になってもらいましょう」
お母さんは篭の中に、ビスケットとワインと、バターの入った壷を入れて、赤ずきんちゃんに持たせました。
それから念を押しました。
「いいね、まっすぐに行くんだよ。森には恐いことがたくさんあるからね。寄り道をしてはいけないよ」
「はい、お母さん」
赤ずきんちゃんは家を出ました。
外はとってもいいお天気。あちこちから小鳥の声が聞こえて来ます。赤ずきんちゃんは嬉しくなって、歩きながら自分も歌い始めました。
ところがその声をオオカミが聞き付けました。森の樹の陰から赤ずきんちゃんを、眺めたオオカミは、ペロペロと舌舐めずりをしました。真ん丸でふわふわでおいしそうな赤ずきんちゃんを、オオカミはず〜っと前から食べたくてしょうがなかったのです。
「しめしめ、一人っきりだぞ。ひとつパクリとやろうじゃないか」
オオカミは優しそうな作り声で、赤ずきんちゃんに話しかけました。
「こんにちは、赤ずきんちゃん。どこへお出かけだい?」
「おばあさんのところへお使いに行くのよ」
赤ずきんちゃんはニコニコして答えました。オオカミが人間を食べる悪い動物だということを、赤ずきんちゃんは知らなかったのです。
「おばあさんはご病気なの。だからおいしいビスケットとワインを持って行って、元気になっていただくのよ」
オオカミは最初、すぐにでも赤ずきんちゃんを食べるつもりでいましたが、それを聞いて考え直しました。おばあさんも食べてしまおうと思ったからです。
「おばあさんはどこに住んでいるんだい?」
「森の向こうよ。水車小屋の前を通って、村に入って一番最初の、青い屋根のおうちなの」
「ふうん」
オオカミは鼻をならしました。
「このへんにはきれいな花がたくさん咲いているんだよ。おばあさんへのお土産に花束でもこしらえてみるってのはどうだい?きっとおばあさんも喜ぶんじゃないかなぁ」
オオカミは言いました。
「まあ、本当ね。そうするわ。どうもありがとう」
赤すきんちゃんはお母さんの言い付けをすっかり忘れて、オオカミに言われた通り、寄り道しながらせっせと、花を摘み始めました。
一方、先回りしたオオカミ。
村に入って最初の青い家を見つけると、赤ずきんちゃんの声を真似て、戸を叩きました。
「おばあさん赤ずきんよ。お加減はいかが?おいしいビスケットとワインを持って来たのよ」
そして、何も知らないおばあさんが戸を開けると、すぐにおばあさんをふがふがと丸呑みしてしまいました。おなかがパンパンに膨れました。おばあさんはご病気でしたが、丸々と肥っていたのです。そう、赤ずきんちゃんはおばあさんに似たのでした。
オオカミはそれから、おばあさんの寝ていたベッドに潜り込んで、赤ずきんちゃんを待ちました。
ほどなくして赤ずきんちゃんが、トントンと戸口を叩きました。
「おばあさん開けて、わたしよ。お花をいっぱい摘んで来たの。お母さんのビスケットとワインもあるのよ」
オオカミが答えます。
「赤ずきんかい?良く来たねえ。戸は開いているから早くお入り」
「まあ、不用心だわ、おばあさん」
「おまえが来るような予感がしたからだよ」
「おばあさん、少し声が変だわ」
赤ずきんちゃんは首を傾げました。
「それにおふとんにそんなに潜ったら、身体に良くないわ」
「大丈夫だよ。おまえが来てくれたからすぐに元気になるよ。さあ、もっと近くに寄って顔を見せておくれ」
赤ずきんちゃんはベッドに近付き、おふとんの中のおばあさんを覗き込もうとして、思わずギョッとしました。おふとんの縁からなんと、大きな毛むくじゃらの耳が2本、にゅっと突き出ているではありませんか。
「おばあさん、どうしてそんなに大きな耳になっちゃったの?」
「おまえの可愛い声を良〜く聞くためにだよ」
大きな耳の下から、ギョロリとした吊り目が、赤ずきんちゃんを見つめて答えました。
「おばあさん、どうしてそんなに大きなお目々になっちゃったの?」
「おまえを良〜く見るためじゃないか」
「じゃあ‥‥」
「じゃあ?」
「どうしてそんなに大きいお口になっちゃったの?」
「それはね」
おばあさん、いえ、おばあさんに化けたオオカミは、そこでガバリと跳ね起きました。
「おまえを一口で食べるためだよ」
言い終わるより早く、オオカミは頭から赤ずきんちゃんを飲み込んでしまい‥‥しまい‥‥しまおうとしましたが出来ません。さっき飲み込んだおばあさんが、あまりにも肥っていたので、オオカミのおなかはいっぱいだったのです。その上真ん丸な赤ずきんちゃんまで、とても入り切れたものではありません。それでもオオカミは、せっかくの食事のチャンスを逃しては損だと思い、必死で赤ずきんちゃんを飲み込もうと奮闘しました。
その時です。
びり〜〜〜〜っ!
いきなり物凄い音がして、オオカミのおなかがまっ二つに裂けてしまいました。
「あらあらあら」
ぱっくり開けた裂け目から、おばあさんが転がり出て来ました。赤ずきんちゃんもつるんと床に滑り落ちました。
「おや、赤ずきん。おまえ本当に赤ずきんかい?」
「おばあさん、おばあさんなのね?赤ずきんよ。ああ、良かった。こわかったわ」
おばあさんと赤ずきんちゃんは抱き合って喜びました。
オオカミの方はたまりません。せっかく食べたご馳走をもどしてしまった上に、おなかが裂けてしまったのですから。
「痛いよぅ、痛いよぅ。助けてくれよう」
オオカミは床の上を転げ回って、情けない声で泣き叫んでいます。おばあさんも赤ずきんちゃんも、オオカミが少し可哀想になりました。
おばあさんがオオカミに言いました。
「オオカミさん、もう人を食べたりしないと約束できるかい?出来るなら助けてあげるよ」
「するっ!するよっ!もう人間を食べたりしない、騙したりもしない。だから助けておくれよぉ〜っ」
おばあさんはお針箱を持って来ると、縫い針と丈夫な糸を使って、オオカミのおなかをきれいに縫い合わせました。おばあさんは裁縫がとても上手なのです。
赤ずきんちゃんは、元通りのぺったんこのおなかになったオオカミに、ビスケットとバターを半分ずつ、分けて上げることにしました。
「どうぞ、お母さんが焼いたビスケットはすごくおいしいのよ」
オオカミはビスケットにバターをつけて食べ、ワインも少し飲ませてもらいました。それが人間より美味しいとは、とても思えませんでしたが、おなかは十分に満足しました。
オオカミはおばあさんと赤ずきんちゃんにお礼を言うと、森の奥に帰って行きました。
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