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むかし、深い森の中に高い塔がありました。
そこにラプンツェル(野ぢしゃ)という名の女の子がいました。外に出るドアも階段も梯子も、何もない、塔のてっぺんの小さな部屋に、もう何年も閉じ込められているのです。閉じ込めたのは悪い魔女でした。それはラプンツッェルがまだ、お母さんのお腹の中にいた時のことです。突然野ぢしゃが食べたくなったお母さんのために、父さんは森の中を野ぢしゃを探して歩き回ったのですが、どうしても見つかりません。とうとう父さんは、魔女の畑の野ぢしゃを盗んでしまったのです。怒った魔女は、赤ん坊が生まれると、すぐにさらって来てしまいました。
一体何のためだと思いますか?
実は魔女は料理が趣味だったのです。それも毒入りだったり、誰かを呪うための、怪しい料理などではないのですよ。ただ純粋に美味しい料理を作って、誰かに食べてもらいたかったのです。でも、そんなことを他の魔女達に知られたら、馬鹿にされてしまいます。魔女は高い塔に閉じ込めたラプンツェルに、せっせとご馳走を作って食べさせていたのです。
毎日魔女は、たくさんの量のご馳走を持って、塔の下にやって来ます。
そしてこう呼び掛けました。
「ラプンツェル、ラプンツェル、おまえの髪を下げておくれ」
魔女の声が聞こえると、ラプンツェルは自分のきらきらと光る黄金色の髪を解いて、たったひとつある窓からそれを垂らしました。ラプンツェルの髪はそれはそれは長くて、高い塔から地面に届くほどだったのです。魔女はとても身が軽かったので、それを伝ってラプンツェルのところまで上って行くのです。
ある日、森に遊びに来た王子様が、塔の近くを通りかかりました。
「・・・あれ?」
王子様は立ち止って塔を見上げました。風に乗って、なんとも美味しそうな匂いが流れて来たからです。どうも塔の方からのようです。そろそろお昼になろうかという時間で、お腹が空いていた王子様は、思わず鼻をくんくんさせました。
「なんて良い匂いだろう。食べたいなぁ。今朝はりんご1個だったからなあ」
王子様は溜め息を付きました。王子様は小さい頃から殊の外食べることが大好きで、その分しっかり肉も付いて、標準よりかなり太めでした。勿論、だからといって別に病気でも何でもない、とっても健康な青年なのですよ。それでも最近体型が少し気になり出した王子様は、次の舞踏会までに少しだけでもダイエットをしてみようと思い立ったのです。しかも今朝から食事を減らしたばかりだったのです。
そんなわけですから、王子様は匂いの正体が気になって気になって仕方がありません。
「どこかにあの窓のある部屋に行く、入口があるはずだ」
そう思った王子様は、塔の周囲をぐるりと一周してみました。けれど、どこにも入口は見当たりません。何度もぐるぐると回ったみましたが無駄でした。とうとう、王子様はくたびれ果てて、塔の後ろの壁に凭れ、座り込んでしまいました。
その時です。
一人のおばあさんが、手に小さな壷を持ってやって来ました。おばあさんは塔の下に立つと、窓を見上げて叫びました。
「ラプンツェル、ラプンツェル、おまえの髪を下げておくれ」
それは忘れ物の調味料を持って引き返して来た、魔女だったのです。
ほどなく、窓から見たこともない、長い綺麗な金の髪が垂れて来て、おばあさんはその髪を握って塔の壁を昇り始めました。王子様が目を丸くして眺めている間に、おばあさんは軽々と塔の窓に滑り込み、すぐにまた、髪を伝って降りて来ると、忙しそうな足取りで去って行きました。
王子様はまるで、夢でも見ているような気分でした。しばらくぼーっとしていましたが、より美味しそうな匂いにペコペコのお腹をグーッと鳴らして、王子様は我に返りました。
王子様は、おばあさんがしていたように塔の窓の下に立ち、おばあさんと同じ言葉で塔の住人に呼び掛けました。
「ラプンツェル、ラプンツェル、おまえの髪を下げておくれ」
金色の髪はすぐに降りて来ました。王子様は喜んでしっかりその髪を掴みます。そして壁に足を掛け、体重を全部かけて思いっ切り引っ張りました。
「きゃっ!」
遠くで小さな悲鳴がしたと思うと、次の瞬間王子様は、頭の上からどっと降って来た金色の雪崩に埋まって、何も見えなくってしまいました。尻餅をついてひっくり返った王子様のお腹の上に、続いてどっしんと落ちて来たものがあります。それは、王子様の重さと力に耐えかねて、自分の方が逆に落ちてしまったラプンツェルでした。しかも王子様のお腹のスプリングのお陰で、ケガもせずに済んだのです。髪の山を掻き分けて顔を出した王子様に、ラプンツェルはにっこり笑いかけました。
「ありがとう。吃驚したけど、あなたのお陰でわたし、外に出られたわ」
王子様の顔が、見る間にボーっと染まりました。金の髪の持ち主が、とってもチャーミングな可愛い女の子だったからです。長い間運動不足で、ご馳走を食べてばかりいたせいか、王子様に負けないくらいぽっちゃりしていましたけど。
ラプンツェルの話を聞いた王子様は、魔女に見つからない内に、ラプンツェルを連れてお城へ逃げ帰りました。
二人は今も仲良く暮らしています。
最後にこれは内緒の話。
魔女はラプンツェルの計らいで、お城の近くに畑と家を貰い、時々訪れる二人の為に、素敵なレシピの研究を続けています。魔女の作るご馳走は本当に美味しくて、ラプンツェルは忘れることが出来なかったのです。大好きな王子様にも食べさせて上げたかったのですよ。それにしても、悪い魔女は本当は、ちっとも悪い魔女なんかじゃなかったんですね。
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