喉元過ぎれば

 別に一人暮らしてなくてもそうですが、一番気をつけなければいけないのは火災です。これは確実に隣近所を巻き込んでしまうからです。

 一人暮らしの友人が火事を出しかけたことがあります。
 朝、お湯を沸かした時に、ガスコンロの火を消したつもりで全開にしてしまったことに、気付かずそのまま会社に行ったのだそうです。キッチンの日当たりが良いせいで炎が見えにくく、つい錯覚してしまったんですね。
 発見が早く、天井を焼いただけで、大事には至らなかったのですが、大家さんが会社に連絡して来た時は、真っ青になって足が震えたと言っていました。もしアパートを全焼するようなことにでもなれば。考えただけでも身が竦むような話です。

 ところがその2週間後、我が家を訪ねて来た友人は、憤慨しながら言ったのです。
 何でも、煤けた天井の修理費を要求されて、当然と言えば当然ですが、その金額が想像してたよりかなり高かったらしいのです。
「ねえ、あんまりだと思わない?たかが天井焼いただけなのよ」
 私は一瞬、返答に詰まりました。
 喉元過ぎれば何とやら、です。
 もし全焼してたらそんなことは言ってられない筈ですが、実際に全焼しなかったものを、全焼してたらなどとは、考えにくいものなのでしょう。

 巻き込むと言えば、火災だけとは限りません。
 私はなんと、今のマンションで水害に遭遇しました。
 お昼になるかならないかの時間だったと思いますが、私は雨漏りのような音に気付いて、首を傾げました。前夜から降り続いている大雨。でも、私の部屋は6階建てのマンションの4階。そう、最上階ではないのです。
 音のする方向を辿ると、電灯が下がっている場所から水が落ちていました。私は一瞬ポカンとして見てたものです。だって信じられないでしょ?こんなこと。ところが水はどんどん勢いを増してるようです。私は急いでマンションの管理会社に電話を掛けました。「すぐに来て下さい。雨漏りがしてるんです」電話の向こうでも戸惑ってるのが良く解ります。そうは言っても、落ちて来る水の量は増える一方です。百聞は一見にしかず、とにかく何でもいから早く来てくれ〜っ!もう悲鳴に近かったですね。
 原因はベランダの排水溝に水が詰まって流れず、部屋に浸水した挙げ句天井に溜まって、それも飽和状態になったので、下に落ちて来たというものでした。被害に遭ったのは、同じ天井の仕切り内にある、下の4部屋でした。両隣りも、かな。加害者は上の階の一つ置いた隣の部屋の人。呆れたことに部屋にいて、しかも寝てたんですよ。だから、お昼っ頃(笑)管理会社の人がドアを叩いて、やっと目を覚ましたそうです。一瞬何が起こったのかと思ったでしょうね。なにしろベッドの下がすっかり海になってたわけですから。
 最初の発見者だった私は、実質的な被害はそれほどなかったのですが、天井の張替えに絨毯のクリーニングと、全く無事だったわけではありません。暫くは他所に泊まらざるを得ませんでしたし。引っ越したばかりだという、新人サラリーマンのお隣さんは、留守をしてたので、揃えたばかりの真新しい家具が全て、水浸しになったそうです。無論弁償はして貰えるので、我が家の壊れかけた本箱とベッド・・・惜しかったかなぁ、あ、いや(笑)
 数週間後、管理会社の人が見舞金を持って来ました。この人、初老の温厚そうな方なのですが「そう言えば謝りにも来ませんねぇ。被害を出された方は一体どういう人なんですか?」多少、皮肉をこめた私の口ぶりに「不満もあるでしょうが堪えてやって下さい。まだ子供なんですよ」・・・ちょっと待て。マンションで一人暮らしをしてる女性は、いくら若くても子供とは言わないぞ。第一、何か問題を起しても責任を取れないような子供に、あんたは部屋を貸してるのか?思っただけで、実際に口に出したわけではありませんよ(笑)
 後始末は全部管理会社がやってくれるし、多分保険金も降りる。これは憶測ですが、その加害者の女の子、実家には何も言えずにいたんじゃないでしょうか。親だったら吃驚して、まず飛んで来ますよね。取り敢えず頭を下げて回る位のことは考えるんじゃないかと思う。・・・そうでもないか。昨今の三面記事を賑わせている、非常識な若い親を思うと、ちょっと自信がない。

 この事件の後、マンションの正面玄関とエレベーターの壁に『ベランダの排水溝が詰まると危険なのでたまには掃除をしましょう』みたいな張り紙がしてあって、遊びに来た友人が大笑いしていました。私はお掃除が嫌いなので、豪雨が続くと今でもたまに不安になります。