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「士官学校時代、不良だったコーネフをリーダーだった俺が更正させて・・・」
イゼルローンでオリビエ・ポプランと知り合いになり、イワン・コーネフとも知り合いになれば、誰もが聞く話である。
実際のところ、真相ははっきりしない。ただ一つはっきりしているのはこの二人が、戦場でも日常でも最強コンビだということである。
いつもの如くポプランが女性兵士の部屋から、朝帰りをした時、コーネフは自分の部屋で深い睡眠を貪っていた。
パスナンバーを覚えているため朝帰りついでに、コーネフの部屋に乱入したのである。
まず、勝手知ったる他人の家とばかりにコーネフの部屋に入る。しかしコーネフはベッドの上で微動だにしなかった。
「なーんだ、寝てんのか。」
開けたドアを勢いよく閉めると、キッチンに入りコーヒーをサイフォンで沸かす準備を始めた。
しばらくしてコーヒーの芳しい香りがたち始める。ポプランは沸かしたコーヒーをマグカップに注ぎ、一口飲みながら悪態をついた。
「全く、いい若い者がクロスワードパズルの本と一緒におねんねなんて、不健全だよな。少しはこの俺を見習って・・・。」
「ほう・・・、健全な奴は夜中人の部屋に入り込んで、勝手にコーヒーを飲むのか。」
背後に冷ややかなコーネフの声を聞きながら、口に含んでいたコーヒーを飲み下したポプランは、手にしていたマグカップをテーブルの上に置く。そして反論のため、コーネフのほうへと向き直る。
「もうすぐ起床時間だぜ、わざわざ起こしに来てやった親切な友だちに対してなんだよ、その態度は!」
「ともだち?誰が?」
二人は異なった意味で、しばらく沈黙を守った。明るい色の瞳と、緑の色の瞳の視線が正面で絡み合う。が、なにしろ男同士なので色っぽくも何ともない。先に視線を外したのはコーネフのほうだった。
無言のままコーネフはポプランの脇を通り過ぎ、電子ロックを外したドアを開けた。そして一言こう言った。
「出て行け。」
ドアのほうを指さし、入口から動こうとしない。カッとなってポプランが反論しようと口を開く。
「やぶからぼうに何だよ!コーネフ!」
「同じことを二度と言わせるな。」
有無を言わせない響きをコーネフの声に感じたポプランは、ふてくされたように歩き出す。
「お前の面見るより、かわい子ちゃんとこに居たほうがマシだったよ!」
コーネフの前を通り過ぎるとき、ポプランは毒づくように言い放った。すると、意外なほどとびきりの笑顔をコーネフは見せた。女性兵士のハートを十分射止められるくらいだ。
「同感だ。俺もお前の顔より、クロスワードパズルを見てるほうがいい。」
ドアの外に辿り着き、ポプランは向き直って通路に響き渡るくらいの声で怒鳴った。
「じゃあ、なんでコンビ組んでる!!」
音もなくドアが閉まる間際、コーネフはとびきりの笑顔を崩さず言ってのけたのである。
「決まってるだろ、スパルタニアンの付属品だからさ。」
言い返そうとしたが、1@の隙間もなく閉まった後だった。ドアに八つ当たりをして、ポプランは自室に戻った。
ポプランを追い出した後、コーネフは大きな欠伸を一つして、寝室に入る。
「まーたっく、生まれてこの方人の迷惑を考えたことのない奴は困る。」
ぶつぶつ言いながらベッドメイクを終えると、目を覚ますためにシャワーを浴びようとシャワールームに入った。
ほどなくTV電話(ヴィジホン)が鳴り出す。シャワールームにも付いているため、コックを捻って湯を止め、受信スイッチを入れる。写し出されたのはダスティ・アッテンボローだった。
『悪い!シャワー中だったのか?』
「構いませんよ、アッテンボロー提督。何か?」
『空戦隊のエースの片割れが、俺の部屋でくだ巻いて困ってるんだ。で、お前さんと何かあったのかと思って・・・。原因は何だ?』
バスタオルで髪の水分を取りながら、コーネフは即答した。きっぱりと、穏やかに。
「安眠妨害です。」
『安眠・・・妨害・・・?』
アッテンボローはTV画面に写るクラブのエースと、自分の部屋でくだを巻くハートのエースを見比べる。
『けど、こいつの様子を見てると、それだけじゃなさそうなんだ。キツイ事言ったんじゃないのか?』
困ったようなアッテンボローの問いかけに、コーネフは少し笑って答えた。
「別にただ、売り言葉に買い言葉の応酬だったんです。これといってキツイことは言ってませんが。」
『そうか・・・、わかった。ゆっくりシャワーを浴びてくれ、悪かった。』
がっくり肩を落とし、アッテンボローからの電話は切れた。コーネフは受信スイッチを切ると、バスローブを羽織りシャワールームを出た。
アッテンボローはまんじりとして身動き一つしようとしないポプランを見ながら、心の中で呟く。
(口で言い争って、コーネフに勝てるとでも思ったのか、こいつは・・・。)
くだを巻くエースをなんとかして職場に戻そうと、努力を始めたアッテンボローだった。
「まあ、そう落ち込むなよ、空戦隊に美女が配属されるらしいし・・・。」
この一言で元気よく立ち直ってしまう辺りが、ポプランのポプランたる所以である。
いつもの明るく物騒なハートのエースは数時間前まで仲違いしていたクラブのエースと、見事なまでのコンビネーションを見せた。
「えらく調子がいいじゃないか。」
整備兵が、上機嫌のポプランに声をかける。浮かれ方が普通ではないからだ。
「勝利の女神が俺を祝福するために待ってるんだぜ!実力が発揮できるというものさ。」
口笛すら吹きかねないポプランの口調に横槍を入れてくる強者は、イワン・コーネフだった。
「<勝利の女神>ってのは新しく配属されたスパルタニアンのことか?」
自分の背後に運ばれてきた、パールホワイトのボディのスパルタニアンを示す。ポプランは思いっきり不審げな顔をし、コーネフに聞き返した。
「どういうことだ?」
「アッテンボロー提督に聞いたんだ。あのスパルタニアンの固有名詞は<美女>だそうが・・・。」
そこまで聞いて、ポプランはピン!と走り抜けるものを感じた。今朝アッテンボローが言っていたことと、話が一致する。もしかしなくても美女は・・・と考え付いたところへ、見透かしたようにコーネフの一言がとどめを刺した。
「ポプランの好みだな、グラマラスで抱き心地良さそうだし?。」
「バカヤロー!俺はメカフェチなんかじゃねぇぞー!」
そう吐き捨てたポプランは凄まじい勢いで格納庫から走り去った。周囲の者はア然としたまま見送り、コーネフはニコリと笑い手を振っている。
「コーネフゥ・・・。」
多少非難を含んでいる響きの声に応え、名を呼んだほうに向く。
「‐いい性格してるな・・・。」
「どうも。」
疲れたように整備兵たちは持ち場に戻り、コーネフもパイロットスーツを脱ぐためにロッカーに向かう。
ロッカールームへ踏み込むと同時に、スクリーンパネルの受信スイッチランプが光った。そばにいた他の空戦隊のパイロットが、パネルの受像に切り替える。
「ヤン提督!」
びっくりした!をそのパイロットは全身で表現する。
『疲れているところを悪いんだが、コーネフ少佐は戻っているかな?』
自分が呼ばれていることを確認したコーネフは平素の制服を着込み、ベレーを頭にのせパネルの前に立った。
「コーネフ少佐です。何か御用でしょうか?」
敬礼のポーズをきっちりとっているコーネフの顔を見たヤンは、ホッとした表情を浮かべた。
『戦闘で疲れているところ大変だが、艦橋まで来て欲しいんだが。』
「了解。」
一方こちらは艦橋である。通信を切ったヤンにキャゼルヌが意見していた。
「ヤン、俺はコーネフを呼んでも無駄だと思うんだが・・・。火に油を注ぐようなもんだぞ。」
「シェーンコップに依頼すると、もっとややこしくなりますよ。」
「‐尤もだ。」
そうは言いながらも、誰も間に入ろうとしていない。ユリアン・ミンツは傍観者を決め込み、フレデリカ・グリーンヒルですら我関知せずの有様である。
「だから、お前さんの落ち込み様が普通じゃなかったから元気づけようとしたんだって!何度言やわかるんだよ!」
「熱い期待を見事に裏切ってくれた罪は大きいですよ!いたいけな20代の青年を騙す30男なんて嫌いだ!」
「どうして年齢が関係してくるんだ!論点がズレてるぞ、ポプラン!」
とまァ、一歩間違えれば不毛な年齢論争になってしまうところを必死に軌道修正しながら、二人とも両肩で息をつかねばならないほどの言い争いを展開していた。
「提督、もう止めたほうがいいんじゃありませんか?」
心配げに保護者を見つめる被保護者はそう言ってみたが、保護者=ヤン・ウェンリーはあっさり被保護者=ユリアン・ミンツの言葉を却下した。
「もうすぐ仲裁役が来るから大丈夫だよ、ユリアン。」
多少その仲裁役に不安を覚えないこともなかったが、ヤンの言うことにはあえて反対しないユリアンであった。
「イワン・コーネフ入ります。」
その時である。きっちり敬礼の型を取り、コーネフが艦橋内に立っていた。
「コーネフ、あの二人を引き分けて欲しいんだ。」
争っているアッテンボローとポプランをヤンは、のんびりと指差す。面白そうにコーネフは問うた。
「小官で宜しいんですか?」
「貴官でなきゃ難しいだろうね。」
「わかりました。」
傍観者たちの横を通り過ぎると、コーネフは何のためらいもなく二人の間に入る。無造作に二人を引き剥がし、ポプランのほうを捕まえた。
「こんなところで遊んでる暇があるんなら、スパルタニアンの整備のひとつもやれ。」
一滴のお愛想もない鉄面皮の男にアップで迫られ、ポプランは思わず飛びのいた。
「なんの権利があって、俺にそんなことを言うんだ!」
怒りが持続しているポプランは、アッテンボローに対してと同じ調子でコーネフに噛み付いた。
コーネフはおもむろにポプランの肩に手を置き、軽く息を吐いた。
「ポプラン・・・。」
「な、なんだよ。」
思わず身構えたポプランに、コーネフは思いきり真顔で言った。
「彼女(新しく配属された機のこと)は、俺が貰うぞ、いいな?」
背を向け、スタスタと歩き去るコーネフの後姿を呆然として見送ったポプランだったが、我に却ってその後をダッシュして追った。
「待てぇ〜!コーネフ!あのグラマラスな美女は俺ンだ!」
アッテンボローだけが取り残され、その場に立ち尽くしていた。
「やっぱりコーネフに頼んでよかったよ。5分で片付いた。」
時計を見つつ、ヤン・ウェンリーは満足気に微笑んだ。片付き方に問題があるような気がしたが、敢えて一同は沈黙していた。
やはり、二大エースと並び称されていてもコーネフが一枚上手なのだろうと、つくづく実感してしまうイゼルローンの住人たちであった。
そして二人が最強のコンビだというのは、何よりも真実なのであった。
END
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